最近、元早稲田ビジネススクール教授でローランドベルガー日本法人会長の遠藤功さんが「日本人にMBAはいらない」という文脈で、記事を書いたり本を出したりしています。
遠藤さんの主張
遠藤さんは、2016年11月25日の東洋経済ONLINEの記事「なぜ日本産MBAの「質」はこんなに低いのか」で「日本人にMBAがいらない」理由の一つとして、日本のMBAの「質」が低すぎることを挙げています。
日本のMBAの「質」が低い1つの要因は、専門職大学院の制度にあるとし、専門職大学院では修了要件として必須でない「論文執筆」こそがビジネススクールで学生たちを鍛える最良のメソッドの1つだ、としています。
しかし、遠藤さんは13年の教員生活で101人の論文執筆を指導したとのこと。年平均7人の学生の指導をしたことになります。学生がテーマを自由に設定して書き進める社会科学系の論文執筆は、教員がテーマを決める理系と比べ、教員の負荷が高くなります。多分七人も抱えるのは、相当大変でしょう。遠藤さんが教員生活に嫌気がさした原因の一つかもしれません。また学生側から見ると、十分な指導を受けられない可能性があります。論文執筆を前提とするのであれば、論文指導をする教員がどれだけの学生数を担当するかがMBA選びのポイントかもしれませんね。
日本人にMBAは必要ない?
順位 | 講義を受けてみたい理由 | 回答率 |
1 | 職務上、必要な知識・スキルや経営に関する理論を学びたい | 67.6% |
2 | 人脈を構築したい | 31.0% |
3 | 向上心を満たしたい | 21.7% |
4 | 自分の市場価値を上げて、転職を有利にしたい | 18.4% |
5 | 価値観の違いを学びたい | 17.3% |
6 | 語学力を鍛えたい | 16.8% |
7 | 経営層になるなど社内で高い地位に就きたい | 16.6% |
8 | 会社から必要とされる人材になりたい | 15.7% |
9 | 学ぶことが好きだから | 13.7% |
10 | MBAの学位を取得したい | 11.7% |
11 | 収入を増やしたい | 10.7% |
12 | 将来の独立の準備をしたい | 9.8% |
13 | 社内の研修だけでは不十分 | 9.7% |
14 | その他 | 1.3% |
15 | 好きな先生に学びたい | 1.0% |
16 | 企業派遣制度がある | 0.8% |
知識・スキルを学びたいが圧倒的1位で、収入アップ目的は16位中11位となっています。
今度は世界に目を移しましょう。以下はグローバルで調査したMBA大学院で教育を受ける動機の順位です。出典はmba.com Prospective Students Survey 2015で「1980年代から1990年代に生まれた世代」「1960年代初頭または半ばから1970年代に生まれた世代」「1946年から1964年頃までに生まれた世代」毎の同動機が載っているP23の図から、3世代の平均を私が数字を読み取ったものです。
順位 | 動機 | 回答率 |
1 | 雇用機会を増やしたい | 64.0% |
2 | ビジネス知識・スキル・能力を開発したい | 58.0% |
3 | プロの資格が欲しい | 56.0% |
4 | 個人的な満足が欲しい | 56.0% |
5 | 挑戦的/面白い仕事のため | 55.0% |
6 | 給与の将来性を高めたい | 55.0% |
7 | 市場性と競争力を維持したい | 54.0% |
8 | リーダーシップスキルを開発したい | 52.0% |
9 | 自由に職業選択したい | 50.0% |
10 | キャリアを加速させたい | 50.0% |
11 | マネジメントスキルを開発したい | 48.0% |
12 | キャリアパスを変更したい | 45.0% |
13 | 仕事の効率を高めたい | 42.0% |
14 | ネットワーキング機会を得たい | 38.0% |
15 | 起業の機会を得たい | 35.0% |
16 | 技術的な専門知識を開発したい | 33.0% |
17 | 差別化を図りたい | 31.0% |
18 | 昇進を受けたい | 31.0% |
19 | 国際雇用されたい | 30.0% |
20 | 自信を深めたい | 28.0% |
21 | 人々に影響を与えたい | 25.0% |
22 | シチュエーションをより良くコントロールしたい | 24.0% |
23 | 世界の問題を解決する手助けをしたい | 23.0% |
24 | 認められたい | 22.0% |
25 | コミュニティへの影響力のため | 21.0% |
26 | 尊敬されたい | 20.0% |
日経で16位中11位だった収入アップ目的は26位中6位と高くなっています。このことから、グローバルと比較してそもそも日本人はMBAに収入アップを期待していないといえます。通う側としては給与アップを期待していないのに、国内MBAは給与アップゼロ=日本人にMBAはいらないというのは、少々乱暴なロジックではないでしょうか。
他にも、日経の調査で2位の人脈形成はグローバルでは中位程度に落ちていますし、逆にグローバルにある「世界の問題を解決する手助けをしたい」という動機は日経の調査にはありません。
このように、日本とグローバルではMBAに対する期待が違うのです。MBAの特性が異なることを意味します。異なるものを同じ尺度で比較するのは違和感があります。日本のMBAは「質」が低い、とは一概に言えないのではないでしょうか。